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札幌地方裁判所 平成元年(わ)1193号 判決

本籍

札幌市中央区南五条西二丁目六番地

住所

右同所

医師

田畑武夫

明治四三年九月二日生

本籍

札幌市中央区南五条西二丁目六番地

住所

右同所

病院事務長

田畑美津保

昭和一九年一月七日生

右両名に対する各所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官西浦久子及び弁護人(私選)山根喬各出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人田畑武夫を罰金三〇〇〇万円に、被告人田畑美津保を懲役一年六月に処する。

被告人田畑武夫においてその罰金を完納することができないときは、金三〇万円を一日に換算した期間、同被告人を労役場に留置する。

被告人田畑美津保に対し、この判決確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人田畑武夫は、札幌市中央区南五条西二丁目六番地において、田畑病院(産婦人科)を開設し医業を営んでいたもの、被告人田畑美津保は、事務長として同病院の事務全般を統括する業務に従事していたものであるが、被告人田畑美津保は、同田畑武夫の業務に関し、その所得税を免れようと企て、人工妊娠中絶手術収入の一部を除外して簿外預金を蓄積する等の方法により所得を秘匿したうえ

第一  昭和五九年分の実際総所得金額が一億八六四八万一六五六円であり、これに対する所得税額が一億四四八万六〇〇〇円であるにもかかわらず、昭和六〇年三月一四日、札幌市中央区大通西一〇丁目所在の所轄札幌中税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が九八九六万六三一三円であり、これに対する所得税額が四六二二万九七〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納付期限である同月一五日を徒過させ、もつて、不正の行為により正規の所得税額との差額五八二五万六三〇〇円を免れ

第二  昭和六〇年分の実際総所得金額が一億三七六九万四八七七円であり、これに対する所得税額が六五五一万八八〇〇円であるにもかかわらず、昭和六一年三月一四日、前記札幌中税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が七四六三万五一三八円であり、これに対する所得税額が二四八二万一八〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納付期限である同月一五日を徒過させ、もつて、不正の行為により正規の所得税額との差額四〇六九万七〇〇〇円を免れ

第三  昭和六一年年分の実際総所得金額が一億七二九万二六九八円であり、これに対する所得税額が四七二八万二〇〇〇円であるにもかかわらず、昭和六二年三月一六日、前記札幌中税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が五九五五万一六三七円であり、これに対する所得税額が一六七七万二二〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納付期限である同月一六日を徒過させ、もつて、不正の行為により正規の所得税額との差額三〇五〇万九八〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

一  被告人両名の当公判廷における各供述

一  被告人両名の検察官に対する各供述調書

一  田畑澄子の検察官に対する供述調書二通

一  大蔵事務官作成の「収入金額調査書」「雑費調査書」「貸倒引当金繰戻金額調査書」「貸倒引当金繰額入調査書」「専従者給与調査書」「専従者控除調査書」「青色申告控除額調査書」「利子所得調査書」と題する各書面

一  札幌中税務署長作成の「所得税の青色申告の承認取消し通知書」と題する書面(謄本)

一  押収してある昭和五六年分~昭和六二年分所得税の確定申告書綴(田畑武夫分)一綴(平成二年押第一四号の1)及び青色申告者書類つづり一綴(平成二年押第四一号の2)

(法令の適用)

被告人田畑美津保の判示各所為は、いずれも所得税法二三八条一項に該当するので、各所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により、犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で、同被告人を懲役一年六月に処し、情状のより同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。また、被告人田畑美津保の判示各所為は、いずれも被告人田畑武夫の業務に関してなされたものであるから、同被告人に対しては、所得税法二四四条一項により判示各罪につき同法二三八条一項の罰金刑が科せられるべきところ、いずれも情状により同条二項を適用し、以上の各罪は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪の罰金の合算額の範囲内で、同被告人を罰金三〇〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金三〇万円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置することとする。

(量刑の理由)

本件は、産婦人科病院を営む被告人田畑武夫の業務に関し、その長男の嫁であり、同病院事務長である被告人田畑美津保が、将来同病院を継ぐことになっている夫のために同病院の簿外資金を蓄え、また、夫の実弟の独立開業資金を準備する目的で、判示の方法により、三年分総額約一億九八三一万円の所得を除外した青色申告をなし、合計約一億二九四六万円もの所得税をほ脱したという事案であつて、ほ脱額は右のとおり高額であり、そのほ脱率も平均五九・六パーセントに達していて低率とはいえないこと、犯行態様は、脱税事実が容易に発覚しにくい人工妊娠中絶手術の診療報酬に目をつけ、これを長期間に亘り収入除外していたもので、巧妙悪質であること、その動機にも酌量の余地が乏しいことなどを考えると、実行者である被告人田畑美津保の刑事責任が重いことはもちろん、自己の経営する病院の経理事務に対する監督を怠った被告人田畑武夫の刑事責任にも軽視し難いものがある。

しかしながら反面、被告人らは、本件ほ脱の結果について、修正申告のうえ本税及び付帯税の金額を納付していること、本件の税務調査が開始されるや、直ちに自己の非を認め、新規に税理士を採用するなどして積極的にこれに協力するとともに、捜査及び公判を通じて一貫して犯行を自白し改悛の情を示していること、著明な病院の脱税事件として本件が新聞報道されるなどし相応の社会的制裁を受けていること、被告人田畑美津保に前科・前歴は全くなく、被告人田畑武夫も古い罰金前科の外に犯罪歴はないことなど、被告人両名のために斟酌すべき有利な情状が認められ、その他被告人らの年齢、経歴、家族関係などの諸事情をも併せて考慮すると、主文のとおり量定するのが相当と思料する次第である。

(求刑 被告人田畑武夫につき罰金四〇〇〇万円、被告人田畑美津保につき懲役一年六月)

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大山隆司 裁判官 山崎学 裁判官 石橋俊一)

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